9月に入ってもまだまだ暖かったフィンランドですが、ここ2、3日で朝の気温が10度くらいまで落ち、いよいよ冬が近づいていることを感じます。
秋になると食欲の秋、スポーツの秋、と色々ありますが、読書の秋も忘れてはいけません。
2023年に入って読書もブログも間が空いてしまいましたが、大好きな作家さん・ジョエル・ディケールの最新作が9月に発売されました。日本での発売はまだですが、日本語訳されているシリーズなので、近々日本にも上陸するはずです。
ルシンダ・ライリー、エリー・グリフィスに続き、2021年にかなりハマった作家さんです。
ジョエル・ディケールについて
3人目の方は珍しく男性。スイス人の作家さん、ジョエル・ディケールさんです。原本はフランス語で執筆されていますが、今や世界各国の言語で訳されています。
そのきっかけを作ったのが、2012年に出版された2冊目の『ハリー・クバート事件』です。この作品で数々の賞を受賞し、ジョエル・ディケールの名前が世界中に知られることになります。
1985年生まれということで、まだまだ若い作家さんです。
大学時代は法学部に在学、2010年に修士を卒業し、その後、法律方面ではなく、作家として人生をスタートしました。現在まで5冊の本が世に出ていますが、2012年の『ハリー・クバート事件』が知名度が1番高いですね。
分野としてはミステリーになりますが、謎解きに合わせて人間ドラマを上手に描く作家さんなので、ついつい感情移入してしまいます。女性作家さんではないのに、感情表現がとても繊細で、読みながらついつい涙してしまうストーリー展開です。逆にストーリーは覚えていても、犯人誰だっかな?的な現象におちいることも。
ジョエル・ディケールの作品

スイス人でありながら、アメリカを舞台にした作品が多いのも面白いところです。2020年に出た『622号室の謎 The Enigma of Room』のみがスイスが舞台になっています。
そして彼の名前が世界に知れ渡った、2012年の『ハリー・クバート事件』、そして続編の『ゴールドマン家の悲劇』です。
最新作の『アラスカ・サンダースの事件簿』(日本題は未定)は『ハリー・クバート事件』と『ゴールドマン家の悲劇』の間に起きた事件となっています。
このシリーズの主人公は作家のマークス・ゴールドマン。彼が色々な場所で人と事件と出会うのですが、、人との繋がりについて考えさせられる作品となっています。マークスの出会う人は心に闇を追っている人ばかりで、とっても複雑。
3作目も今までの2冊を読んでいるので、今までの登場人物やマークスについつい感情移入してしまって切ない気持ちになっています。

どの作品も、作家が主人公になっており、作家が本を書けなくなってスランプに陥る。などといったくだりが多いので、ジョエル自身も本を仕上げるまでにスランプになることが多いのかな、という個人的な感想を持ちました。
この作家さんの2大作品はどちらも日本語に訳されているので、紹介させていただきます。
『ハリー・クバート事件』






主人公は先に述べたマークス・ゴールドマンです。マークスは処女作で大ヒットを繰り上げるのですが、その後、何も書けなくなるというスランプに陥り、闇のどん底に。
彼は大学時代の恩師であり、国民的作家として活躍するハリー・クバートに相談するのですが…


その後、アメリカ中を揺るがす衝撃のニュースが!
マルクスの恩師・ハリーが33年前に失踪した少女・ノラの殺害容疑で逮捕されるのです。
なぜ、ハリーに殺人容疑がかけられたのか?
恩師の無実を信じて疑わないマークスが33年前の事件について調べ、自身の小説として書き上げることを決意するのですが…その時は、決して明かしてはいけない事実が隠されていることをマークスは知る由もありませんでした。
誰がノラを殺害したのか?なぜ死体がハリーの庭から見つかったのか?
絡み合った糸を解きほぐしていくうちに、マークスはハリーとノラの愛の裏に隠された真実を知るのです。
感想
どんでん返しに次ぐ、どんでん返し、ということが売りですが、最後の謎が解けるシーンがとても切なく、なんとも言えず悲しい気分になったので評価は4です。
この本は数々の賞を受賞し、評価が高い作品です。2018年にテレビ化もされていますが、現在は見られません。
『ゴールドマン家の悲劇』
この本は私の中の洋書ベスト3に入る小説でした。何度も涙し、今でも読み返してみる小説の1つです。
こちらは『ハリー・クバート事件』の続編。
マークスが幼少時代を過ごしたゴールドマンの従兄弟たちとの思い出を綴った本です。
続編ではありますが、関連があるわけではないので、この本から読み始めても違和感はありません。










本の題名からわかるようにゴールドマン家に悲劇が訪れるのですが。
平凡な家庭に育つマークス・ゴールドマン。その従兄弟であるバルティモアに住む裕福な従兄弟たちに憧れる少年時代。弁護士のソール叔父に、優しくて美しいアニタ伯母。全てが完璧に思えたバルティモアのゴールドマン一家がどのように壊れていってしまったのか。
時は過ぎ、叔父が最期を過ごしたフロリダにマークスが訪れるところから物語は始まります。


そこで出会ったのは、10代をバルティモアの従兄弟たちと共にかけがえのない日々を過ごしたアレクサンドラ。そして彼女はマークスのかつての恋人でもありました。
まだお互いに惹かれ合う二人。しかし、アレクサンドラには現在ともに過ごす恋人も。いけないことと知りつつ、2人の距離は少しずつ近づいて行きます。
2人はかつて伯父の住んでいた家を訪れ、幸せだった時の思い出を話し始めます。
バルティモアの悲劇とは


マークスの従兄弟、ヒレル。そして彼の兄弟として、家族として引き取りられたウッディ。2人は強い絆で結ばれ、マークスは嫉妬心すら覚えます。そしてヒレルの学校に転校生としてやってきたスコットもバルティモアの一員に。そしてスコットの姉であるアレクサンドラとの出会い。4人とマークスが過ごした時の思い出はあまりにも美しく、かけがえのない日々。
しかし。
彼らの成長とともに、揺るぎなかったバルティモアの絆が少しずつ崩れていきます。しかし、それはこれから先に訪れる本当の悲劇の前兆に過ぎなかったのです。
彼らに訪れた悲劇とは?マークスはなぜ、アレクサンドラと別れたのか?アレクサンドラが本当に守りたかったものとは?過去に封印されていた悲劇のストーリーが少しずつ解き明かされていきます。そして全てを知った2人が選ぶ道とは?
この本は最後のストーリーを思い出すと、あまりに切なくて美しく、涙がこぼれます。
心の闇との付き合い方


ほんのわずかの心の歪みだったり、嫉妬だったり、闇だったり、それが大きくなるにつれ、マイナスの気に飲み込まれてしまう恐ろしさ、悲しさを上手く描いている小説だと思います。
今ここにある姿でいいのに、そこから何かを求めてしまう人間のエゴ。小説なので極端かもしれませんが、この本に書かれている危うい気持ちは全ての人に共通してあるものなのだと思います。それをうまく操れるか、それに押しつぶされてしまうかを決めるのは自分でしかないのです。
この小説で悲劇の人生を送った人たちも、はじめはちょっとしたほころび、だったのです。彼らが全て悪かったわけではないのです。善と悪の境は紙一重。人生の選択をするのは自分次第なのだと、この本を読んでいて強く感じました。
秋の夜長に…読書を楽しむ
所々のシーンは読んでてしんどいところもありました。イジメのシーンなどです。
それでも、ジョエル・ディケールさんの描く物語の魅力に引き込まれ、最後まで読み切りました。私にはこれまた、人生を考える良い機会になりました。
さらに、こちらの本はオーディオブックで読んだのですが、読み手さんが素晴らしかったです。それも高評価の1つの理由です。素晴らしい本は、言語は違えど人の心を動かすのだと感じた1冊でもありました。
評価については数も多くない上に、賛否両論です。それでも、私はこの本をお勧めします。このブログで、ちょっとでも読んでみようと思った方がいたら、手に取ってみて下さい。


私は最後の数十ページのくだりが好きです。愛とは、許しとは、何か考えさせられます。
残念ながら、2022・2023年には彼らを超える作家さんたちにはまだ出会えていません。彼らの最新刊を楽しみにしている中で、この秋、『アラスカ・サンダースの事件簿』に出会いました。まだ最後まで読めてはいませんが、今までの2冊を思い出しながらセンチメンタルな気分で読み進んでいます。
秋が深まる中、心を洗い流すような本を読みたい方、ジョエル・ディケールの本を読んでみてはいかがでしょうか?
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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