ブログでは初めて日本人の作家さんを紹介します。
それも誰もが知る東野圭吾さん、とベタな感じで申し訳ないですが、久しぶりにどっぷりと浸かってしまうほど良い作品だったので、読み終わって興奮冷めやらないうちに書き記しておきたいと思います。
2020年に発売されたベストセラー「クスノキの番人」の続編、「クスノキの女神」です。
まだ1作目を読んでいない方はネタバレも含みますので、まず「クスノキの番人」を読んでくださいね。
東野圭吾「クスノキの女神」
「クスノキの番人」ではダメダメな主人公・玲斗が伯母の千舟と出会い、クスノキの番人として成長していく姿が描かれていました。
「クスノキの番人」の最後では、千舟が軽度認知症害を患っていることがわかりました。
「クスノキの女神」では、気丈で強かった彼女が、薄れていく記憶の中でもがきながら自分らしく生きようとする姿、それを支える玲斗の優しさと強さが絶妙に描かれていました。
この本に新たに登場する記憶障害の少年と、認知症の恐怖に怯える千舟の気持ちがリンクして、生きる意味とは何か?希望とは何か?を問いかける内容になっています。
少年は脳腫瘍を患っており、手術はしたものの、後遺症として記憶障害が残ってしまいました。その記憶障害というのも、眠ってしまうと前日の記憶は全て忘れてしまうというもの。
昔の記憶は残っていても、会った人も、したことも翌日になったら忘れてしまう、忘れないように少年は日記を書いているが、そんな生活の中で生きる意味を見出せずに日々を過ごしています。そんな氷のように冷え切った少年の心を、玲斗が少しずつ溶かしていきます。最後にはクスノキの力で少年に奇跡が起きる!という感じの展開です。
この少年の話を千舟に話した時に、彼女が言ったのがこちら。
あんなに若いのにかわいそうね。でも、もっと辛いのはお母さんの方じゃないかしら。
東野圭吾「クスノキの女神」より
あの子が生きる気力をなくさないようにするのは大変だと思うから
この言葉を発した千舟自身が、その気力を振り絞っていることを知っている玲斗は言葉を失います。
彼らのいる絶望の深い闇、それを玲斗は知ることはできません。それでも、彼らのことを思う気持ちが“生きる希望”を与えます。その道のりは決して簡単なものではありませんでしたが、皆の気持ちが通じあった時、まさに夢のような出来事が起きるのです。
玲斗は千舟から人生を、クスノキの番人との心得を学び成長していきます。そして、千舟は玲斗から“生きる希望”と愛をもらいます。
最後で玲斗のことを忘れてしまった千舟の言葉は悲しくもありますが、同時に、彼女が記憶を失うという恐怖から解放された瞬間でもあります。
彼女が幸せな気持ちでその一歩を踏み出せたのは、玲斗がいたからに違いないでしょう。
認知症と向き合うということ

認知症テーマは自分が経験してきたということもあり、読んでいて感情移入しがちです。
完璧主義者でしっかり者の千舟にとって、自分の記憶が薄れていくという現実は恐怖でしかなかったでしょう。
忘れないように努力しながら、努力だけではどうにもならないことを受け入れてはいながらも、もどかしさを感じています。
気丈な彼女が見せるふとした不安な表情、理解してはいながらも認めたくない玲斗のやりとりがなんとも切ないです。
実際に祖父も備忘録として手帳をつけていました。いつからか手帳の字に力が無くなり、漢字が思い出せなくなり、ひらがなが増え、最後はまさにミミズの這ったような字を一生懸命に戦いながら書いていました。思えば、書くことをやめた時、認知症がひどくなったのでしょう。

しっかりしなければ、自分はこんなんじゃない!と戦っていた時期はさぞかし本人も辛かったはずです。
本の中でも出てきましたが、自分の中で認知症予防のために始めたことができなくなった時、症状が一気に進むようです。朦朧とした意識の中で、あがいてあがいて現実と繋いでいた糸がプチっと切れてしまうのかもしれません。
でも同時に記憶を失うという恐怖に怯えることはありません。苦しみから解放されるのです。
残された家族には痛みが残ります。どんなに後悔のないように日々を過ごしてきているつもりでも、その日が来れば、あーしておけば良かった、と後悔は尽きないのです。
特に、自宅で介護をしている場合、家族の大変さは計り知れません。我が家もそうでした。自分たちだけでどうにかしようとして、いっぱいいっぱいになって壊れてしまいました。
あそこまでひどくなる前に、しっかりとした介護を受けられる施設に入っていたら、「クスノキの女神」の千舟のような最後の人生を祖父も生きられたのかもしれません。
今になっても後悔は尽きません。
あの時の私が、もっと大人だったら、もっともっと家族のことを大切に想っていたのなら、今の私は後悔せずにいたのでしょうか。そんな気持ちも「クスノキの女神」を読んで少し浄化された気がします。
大切なのは今です。今、健全な心を持っていられるのなら、それで幸せなのです。
東野圭吾「クスノキの女神」
今のあなたが存在することをありがたいと思い、感謝しなさい。
そうすれば昨日までのことなど気にならず、明日からのことも不安でなくなります。
もう一度、大切なことを教えられました。今、こうやって生きていることは素晴らしいことなのだと、それを忘れてはいけないのだと。
そんなことを考えながら、ダラダラと過ごしている自分、いけませんね。久しぶりのブログは、おすすめの小説でした。内容は自分の心に強く響いた部分を中心に書いてしまったので、そのほかのメインストーリーについてはすっぽり抜けてしまいました。悪しからず。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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