ジョエル・ディケールの『アラスカ・サンダースの事件簿』の後味がなんとも悪く、しばらく読書から離れようかと思っていた今日この頃。
少し前に読んではやめ、読んではやめ、を繰り返していた本を引っ張り出しました。
その名も。
『木曜殺人クラブ』
今まで3作が発売され、日本語にも訳されています。英語版はすでに4作目も発売されているので、日本語訳が出るのも近いでしょう。スティーブン・スピルバーグが映画化することも決まったそうなので、これからさらに熱くなる小説かもしれませんね。
著者はリチャード・オスマンというイギリスの男性作家さんです。写真を見る限りとっても背が高そう。
元々はイギリスでテレビ司会者、プロデューサー、コメディアンなどをやっていたテレビ畑の方です。イギリスでも人気だったクイズショーのプロデュースや司会に携わっており、イギリスの中では小説家、というよりも司会者、というイメージも強いかもしれませんね。
そんなオスマンさん、2020年に処女作『木曜殺人クラブ』を発表し、話題性もあり100万部以上が売れました。テレビ制作も手がけていたということで、なんともテンポの良いコメディー要素の強い作品で、読んでいてついつい引き込まれてしまいます。
4作目『The Last Devil To Die』は2023年9月に発売され、ニューヨーク・タイムズのベストセラー第1位に選ばれています。
そんな気になる『木曜殺人クラブ』シリーズを今回は紹介します。
『木曜殺人クラブ』はどんな小説?
イギリスの高級高齢者の集合住宅地・クーパーチェイス。この地域に新しい施設を作ろうとしていた経営陣の一人が殺されます。平穏な住宅街で何が起きたのか?警察も調査を始めますが、ほかに動き出したのがクーパーチェイスの老人グループ『木曜殺人クラブ』でした。
警察の未解決事件を解決しようと毎週木曜に集まっている『木曜殺人クラブ』のメンバー。頭のキレる謎の高齢女性・エリザベス、最近クラブに参加したばかりのジョイス、精神科医・イブラハム、元ボクサー・ロンの4人が殺人事件を解決していく痛快コメディーです。
クーパーチェイスに住む4人の老人が、なぜ警察とともに調査を始めることになったのか。彼ら、彼女らは一体何者なのか、事件の真相はいかに?!という内容です。
正直、ミステリーの内容が好き、というわけではなく、『木曜殺人クラブ』のメンバー4人の愛らしいキャラクターが好き。彼らの年齢は70歳以上80歳近くまで様々ですが、とってもパワフル。家にいてのんびり読書を楽しんでいる穏やかなおじいちゃんおばあちゃんではありません。
『木曜殺人クラブ』の魅力的なキャラクターたち
気持ちは動きたいのに、体はついていかない、おまけに歳も年なので、あらゆる文明の力を使いこなせず、ついつい現場調査を行ってしまうところなど読んでいて微笑ましいです。そんなこんなのプッと吹き出してしまうようなエピソードを含みつつ、話は進んで行きます。
それと同時に高齢者ゆえの寂しさ、もどかしさ、などもうまく描かれており、読んでいて胸がジーンと熱くなったり、切なくて目頭が熱くなるシーンもありました。
エリザベスの旦那さんの老い、記憶が薄れていく姿は自分の家族とも重なり、なんとも切ない気分になりました。近くで愛する人の記憶が少しずつ奪われていく姿に直面し、エリザベスは時に涙し、それでも強く現実に立ち向かっています。ここもシリーズ4作目でどのように描かれているのか、気になります。
シニア世代が読んで納得する小説、というよりも40〜50代の世代が自分の親はもう若くないんだ、と気付かされる点でも読者の共感を呼び、人気を集めているのではないかと思います。
その中で出てくるジョイスのキャラクターが天真爛漫でありながら、誰よりも『木曜殺人クラブ』のメンバーを愛し、皆をまとめる姿が素晴らしい!この小説に輝きを与えています。シリーズを読んだ人ならそうそう!と思い当たるところがあるでしょう。
『木曜殺人クラブ』シリーズ2作目『2度死んだ男』
とはいえ、このシリーズに出会ったのは実は2作目『2度死んだ男』から。
1作目はなんとも取っ付きにくく、最後に読みました、というか読んでいます。シーンがぽんぽんと目まぐるしく変わり、登場人物も多く1作目は読みにくかった、という印象でした。
2作目に関しては『木曜殺人クラブ』シニアメンバーに警察、プラスαだったので登場人物もはっきりしていて読みやすかったです。内容的にも1番面白かったかな、という感想です。1作目とそこまで繋がっていないので混乱せずに読めるので2作目から読んでも良いでしょう。
2作目の『2度死んだ男』はこちらです。
1作目でもわかるのかわかりませんが、エリザベスの正体が判明しました。これはテンポが良く面白かったですね。合間合間に出てくる愛するべきシニアキャラクターが『木曜殺人クラブ』シリーズに程よいスパイスを与えてくれています。
そして3作目、『逸れた銃弾』。3作目は2作目からのつながりが色濃いです。ここまでくると愛すべきキャラクター4人が出るために読んでいる気分です。犯人が誰か?というより4人の人間ドラマの方が気になる、のが正直なところでしょうか。
2、3作目はまだまだ日本では値段が高いのが残念です。どちらもジョイスがいい味出してます。
最後に
今回は、シニアが活躍する推理小説『木曜殺人クラブ』を紹介しました。一般の推理ものとは一味違う小説で面白いので、興味がある方は是非読んでみてください。
推理小説を楽しむ、というよりは人間くさい小説が好きな人におすすめです。犯人を当てるシナリオは2、3作目どちらも少し弱い気がします。
今年に入ってもう一冊、一般人シニアが活躍する推理小説を読んだので、今はシニア探偵ブーム、なのかもしれませんね。
人生が長いゆえに伝えられる教訓的な要素と、年を取ったからといって気持ちは若い時と変わらないのだ、というメッセージも魅力的。そしてシニア達が若者たちの意見に耳を傾けるところが嫌味なく書かれているのも素敵です。
コミカルでありながら、ジーンと心が温かくなる『木曜殺人クラブ』とともに秋の夜長を過ごしてみてはいかがでしょうか。
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